大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)783号 判決 1982年4月01日

上告人

有限会社

たちばなや

右代表者

栗又栄子

右訴訟代理人

長井清水

被上告人

株式会社

笹塚工務店

右代表者

市野一男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長井清水の上告理由第一点について

原判文及び本件記録に徴すると、上告人が被上告人に当事者適格がないとして訴え却下の申立をしたことは明らかであつて、右申立について原審が原判示の判断をしたことにはなんら所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点及び第三点について

手形所持人は、たとえ手形が裏書の連続を欠くため形式的資格を有しなくても、実質的権利を証明するときは手形上の権利を行使することができることは、当裁判所の判例するところであり(昭和二九年(オ)第八六号同三一年二月七日第三小法廷判決・民集一〇巻二号二七頁参照)、被上告人の上告人に対する本訴提起の当時、本件各手形はその外観上被上告人への裏書の連続を欠いていたが、被上告人が実質上本件手形の権利者であることは、原判決の確定するところであるから、被上告人の右各手形をもつてした本訴提起は、権利の行使として欠けることはなく、これにより右各手形債権の消滅時効の進行は中断の効力を生ずるものというべきであり、これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人長井清水の上告理由

第一、原判決理由 本案前の申立について

「本件各手形の権利者は八千代信用金庫であり被控訴人は裏書の連続を欠く所持人に過ぎないから原告適格がない」と主張するが、およそ原告適格の有無は云々と判示しているが上告人は原告適格がないとの主張はしていない。

上告人の主張は被上告人の原告適格を争つているものではなく時効中断は債権者がなすべきものであり本件において本訴提起当時の本件各手形の権利者は右各手形の記載上八千代信用金庫であり被上告人ではないから本訴提起が右金庫であれば右提訴により時効中断の効力があるが右提訴当時右各手形の記載上権利者でない被上告人からの提訴であるから右提訴により右提訴時に時効中断の効力は発生しないと主張し、右提訴後の昭和五三年六月一五日被上告人が右各手形の裏書を抹消し、右各手形の権利者となり時効中断をなし得る適格を得たものであるとしても、既にその以前に消滅時効完成し右各手形債権は消滅しているから本訴請求は失当であると主張しているものであるに拘らず原判決は右各手形の権利者として時効中断をなし得る適格と本訴における原告適格を区別せず混同して判断しているものであり原判決は理由に齟齬あるものである。

第二、本件各手形の支払期日は昭和五〇年四月二〇日であるから同五三年四月二〇日の経過前に時効の中断がなければ右各手形債権は時効により消滅するものである。

而して時効中断は右各手形の権利者でなければ為し得ないものであり提訴の場合も同様である。

本件は被上告人は同五三年四月一九日提訴している。

民法第一四七条以下の時効中断の事由は権利者と義務者間の出来事であることは当然予想されているものである。

手形権利者でないものが提訴しておき後日口頭弁論終結時までに手形上の権利を取得し本訴における原告たる適格を具備しても右手形権利者となるまでの間に時効満了している場合は本訴における原告適格の有無に関係なく本件各手形債権は時効により消滅するものである(最高裁判所解説昭和三九年度民事編第一八巻四七〇頁ないし四七二頁同裁判所同三七年(オ)第五二二号同三九年一一月二四日第二小判決についての解説)

本件において被上告人は右各手形の消滅時効完成後の同五三年六月一五日に右各手形の裏書を抹消し右抹消の時点において始めて右各手形の記載上右各手形の権利者となり時効中断をなし得る適格を具備したものである。

従つて右各手形の裏書の抹消時点までの間の右各手形の権利者を検するに右手形の記載上並に本件(二)(四)の各手形はその付箋不交換印からして右金庫であることが明白である。本訴提起が右各手形の権利者である右金庫からの提訴であれば時効中断の効力発生するが未だ右各手形の記載上等から右各手形の権利者でない被上告人からの本件提訴は右提訴時においては時効中断の効力はないものであり右裏書を抹消した同五三年六月一五日に始めて右各手形の記載上被上告人が右各手形の権利者となつたものであるから既に右裏書の抹消前に右各手形は時効により消滅しており右抹消により被上告人が本訴における原告たる当事者適格を具備したことには関係なく右提訴時の右各手形の権利者がいづれであるかを明かにしそれにより時効中断の効力ありや否を判断すべきが当然である。

原判決は理由二において上告人の主張を誤解し抹消の時期が時効期限経過後であると否とは問わないと判示しているのは時効中断をなし得る権利者である適格と本訴における原告たる当事者適格を区別せず混同して判断しているものであり原判決は理由に齟齬あるものである。

第三、原判決は理由三抗弁1において被上告人は八千代信用金庫から本件(一)(三)の各手形を受戻し本件(二)(四)の各手形の返還を受けいずれも右手形上の権利を取消しと判示し最高裁判所昭和三一年二月七日第二小判民集第一〇巻第一号二七頁を掲記しているが右判決は理由において「もつとも被上告人から右金庫に対する裏書が本件各手形の最終裏書としてなお残存する以上被上告人はたとえ実質的権利を有しかつ手形を所持していても裏書の連続を欠くため本件各手形の権利につき形式的資格(以下適格)あるものとなすことはできない」との趣旨を判示している。

右判決の判示趣旨からして本件各手形の裏書の抹消時点までは右各手形の記載上並に付箋不交換印からして右金庫につき最終的裏書が残存しているものであり、本訴提起当時は被上告人については裏書の連続を欠くものであるから(本件(一)(三)の各手形は裏書の抹消されておらず(三)(四)の各手形は右金庫から被上告人に裏書の記載がない)被上告人は右提訴当時は右各手形の権利者と認めることはできず従つて右提訴により時効中断の効力は発生しないものである。

右抹消により被上告人が始めて右各手形の権利者となつた時点においては既に右各手形債権は同五三年四月二〇日の経過により時効により消滅しているから本訴請求は失当であると主張しているに拘らず右厳然たる事実を無視し本訴提起当時の右提訴による右各手形の権利者として時効中断をなし得る右各手形の記載上右金庫の右各手形の権利者である適格と本訴における被上告人の原告たる当事者適格を区別せず混同して判示している原判決は理由に齟齬あるものである。

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